東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)16号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔編注〕一 (特許庁における手続の経緯)
原告は、特許第二七七、三五八号「合成樹脂袋密封法」なる発明(昭和三十一年十一月一日出願、昭和三十三年七月三十一日出願公告、昭和三十六年六月二日設定登録)の特許権者であるが、昭和三十七年四月十二日被告は、原告を被請求人として、本件特許の無効審判を請求し、同年審判第四六七号事件として審理された結果、昭和四十一年十一月二十六日、「本件特許を無効とする。」旨の審決があり、その騰本は昭和四十二年一月十一日原告に送達された。
二 (本件特許発明の要旨)
断面円形の軟質針金製U字形口金に合成樹脂袋の絞つた口部を嵌合し、U字形口金の上下より、前記U字形口金を嵌受するV形底部および側壁部を有する受型、前記受型に嵌合する鈍角逆V形底部を有する押型により強力に圧潰することにより先ず前記U字形口金の端部を圧接し、さらに該端部を前記押型にて直接圧漬して、前記受型および押型により囲まれた口金の外方膨出を阻み内方にのみ膨出させると共に口金端部の切口が袋に接触しないように袋の口部を緊締することを特徴とする合成樹脂袋密封法。
三 (引用例の要旨)
出願前国内に頒布されたドイツ特許第七二二、九二八号明細書(以下「引用例」という。)には、原料を詰めた腸管先端を括つたソーセージの先端を上部、下部平板の三角状切り込みに作られた空間に挿入し、上部平板を押し下げて上記空間の間隙を消失せしめ、ソーセージの括つた部分を下部平板の頂部に設けた条溝のあるU状くぼみに押しつけ、この状態で上部平板の三角状の頂部に開口した貫通部内を上下するU状底辺を有する押圧子で押圧子の下方に送り込まれたU状針金を圧下し、上記ソーセージの先端をU状針金で結着するようにしたものが記載されている、以上の構成から、押圧子の圧下により、U状針金の先端はU状くぼみの条溝に沿つて折曲し、その先端が互いに接するとともに、U状針金は押圧子のU状底辺および下部平板のU状くぼみの条溝とによつて円環状に変形し、ソーセージの括つた先端を結着するものであることが認められる。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決は、本件特許発明の要旨の認定を誤り、ひいて引用例との比較において判断を誤つた違法のものであり、取消を免れない。すなわち、本件特許発明の細明書中特許請求の範囲の記載が本件審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがなく、これと本件特許発明の特許公報とによれば、ハム等の食料を詰めた合成樹脂袋の口部を金具で密封する方法において、単に金具を環状に巻き付けるだけの従来の技術では十分な密封効果が得られない等の欠点があつたので、本件特許発明は、これを解決するため、軟質針金製U字形口金に合成樹脂袋の絞つた口部を嵌合したうえ、これをV形底部および側壁部を有する受型と、鈍角逆V形底部を有する押型により、上下より強力に圧漬することにより、まず、U字形口金の端部を圧接し、さらにその端部を右押型で直接強圧して、全体としてほぼ円形に変形させるとともに、口金の肉にその軸に対して横方向への移動(膨出)を起こさせるのであるが、その際、口金は受型および押型により囲まれて外方への膨出が阻まれているため、その肉は、内方にのみ膨出せざるをえず、この内方へ膨出する口金の肉により袋の口部を強く押し包むことを特徴とする密封法として出願され、特許されたものであり、その口金が、単に、全体として、上下の型に沿つて変形するに止まらず、その肉が内方にのみ膨出する点に、本件特許発明における主要な技術思想があるものと認められる。
しかるに、本件審決は、本件特許発明の特許請求の範囲を明細書記載のとおりと認めながら、本件特許発明と引用例のものとの相違点についての判断に当たつて、「口金の端部は上型である押型の鈍角逆V形底部により変形するのでこれを圧漬といつているものと認められ、また、口金の中央部が上記変形とともに下型である受型のV形底部に沿つて変形するので口金全体についてみれば、受型、押型により囲まれた口金の外方膨出を阻み内方にのみ膨出させといつているものと認められる。」と認定し、口金全体が上下の型に沿つて、外方膨出を阻まれて、変形する点を特徴として捉えながら、口金の肉が内方へ膨出して袋口部を締め付けるという本件特許発明の前記の技術思想を看過、誤認していることが明らかであり、そのような誤つた認定を前提として、本件特許発明と引用例記載のものとを比較した結果、本件特許発明と引用例のものとの構成上の差異がいずれも微差で、作用効果においても差異がないものと判断し、本件特許発明の引用例に容易に実施することができる程度に記載されていると結論したものといわざるをえない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由があるものということができる。よつて、これを認容する。
(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)